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東京高等裁判所 平成11年(行コ)114号 判決 2000年5月18日

主文

一  原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

二  右取消部分に関する被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文と同旨

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

一  本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正し、控訴人の当審における補充の主張を左記二に掲記するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」欄に記載されたとおりであるから、これを引用する(略語も原判決のそれによる。なお、原判決の別紙「略語一覧」の一三の「七割評価通達」の次に「「」を加える。)。

二  控訴人の当審における補充の主張

1(一)  法三四九条一項は、賦課期日における価格を登録価格とするとは規定しておらず、あくまでも、賦課期日における価格を課税標準とすると規定しているのである。そうとすれば、平成五年法律第四号により規定された法附則一七条の二により登録価格と課税標準とが大きく乖離することとなった現行法の下においては(課税標準は登録価格より相当低額である。)、登録価格が賦課期日における価格と一致しているか否かを審理の対象とすべきではなく、課税標準が賦課期日における価格と一致しているか否かを審理の対象とすべきである。

(二)  仮にしからずとするも、たしかに、本件においては、本件各土地の平成五年一月一日の価格が土地課税台帳に登録されたものであるが、法三四九条一項にいう「基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳等に登録されたもの」とは、その登録のために法が種々の手続を要求していることからして、「基準年度に係る賦課期日において土地課税台帳等に登録し得る価格」と解すべきである。

このことは、法附則一七条の二及び一八条が、平成六年度から平成八年度までの価格の上昇による特例措置及び負担調整措置について、いずれも、平成四年七月一日を価格調査基準日とする各都道府県の基準宅地価格を基礎として平成五年度課税標準に対する上昇率を算定し、それによって平成六年度から平成八年度までの課税標準を決定することとしていたことからも明らかである。

2  本件標準宅地イの平成四年一月一日から同年七月一日までの時点修正率は、マイナス八・九パーセントであって、マイナス九・〇パーセントではない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、被控訴人の本件請求を棄却すべきものと考えるが、その理由は、次のとおり付加、訂正し、後記二及び三のとおり当審の判断を加えるほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」欄に記載されたとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の六頁六行目の「組み」の次に「について」を加える。

2  原判決の別紙「適正な時価と登録価格の違法判断の枠組みについて」の七頁八行目から九行目にかけての「「適正な時価」とは、評価基準に従って評定された時価ということになる」を「「適正な時価」は、評価基準によって決定されることになる」と改め、八頁一行目の「時価を評価をする」を「時価を評価する」と改め、九頁二行目の「価格」をいずれも「評価額」と改め、同頁六行目の「価格」を「評価額」と改め、同頁八行目から九行目にかけての「理念的には」の次に「評価基準によって決定された評価額は」を加え、一二頁末行の「時価」を「客観的時価」と改め、同行の「また、」を削る。

3  原判決の別紙「本件標準宅地イの価格について」の一頁本文四行目の「本件鑑定評価書」を「本件鑑定評価書イ」と改め、同頁本文五行目の「不動産鑑定士が示した下落率九・〇パーセンを」を「下落率を不動産鑑定士が示した」と改め、二頁九行目の「基準地価格」を「標準地中央五-四の公示価格」と改め、三頁二行目の「本件鑑定評価書イ」の次に「及び価格決定資料イ」を加え、同頁末行の「修正率」の次に「マイナス八・九パーセント」を加え、四頁二行目の「「再調整」をせざるを得ない」を「「再調整」をして平成五年一月一日の価格を求めざるを得ない」と改め、七頁九行目の「本件鑑定評価書イ」の次に「及び価格決定資料イ」を加え、八頁一行目の「原告は、」の次に「右二1③のとおり、」を加え、同頁二行目から三行目にかけての「修正率」の次に「マイナス八・九パーセント」を加え、同頁五行目の「不動産鑑定士」の次に「A」を加え、同頁五行目から六行目にかけての「公示価格」の前に「標準地中央五-一の」を加え、同頁六行目の「基準地価格」を「基準地中央五-二〇の都調査価格」と改め、同頁七行目の「変動率等」を「変動率」と改め、同行の「九・〇パーセント」を「八・九パーセント」と改め、同頁一〇行目から末行にかけての「違法というべきであるが」を「適法というべきであり」と改め、同頁末行の「九・〇パーセント」を「八・九パーセント」と改め、九頁九行目の「不動産鑑定土」の次に「A」を加え、一二頁九行目及び一五頁九行目の「規準価格」をいずれも「比準価格」と改め、一九頁五行目から二一頁一〇行目までを次のとおり改める。

「六 本件標準宅地イの賦課期日における適正な時価について

以上説示したところによれば、被告が行った本件標準宅地イの賦課期日における価格の決定には、その手続及び内容において、違法というべき点はない。

そして、右期間の下落率を八・九パーセントとすると、本件標準宅地イの賦課期日における時価は、一平方メートル当たり八一二万七六一四円と認められるから、これに基づく路線価はその上位四桁以下を切り捨てた八一二万点となる。

なお、右路線価八一二万点は、平成四年一月一日における一平方メートル当たりの鑑定評価額一五六〇万円を基に、右同日から同年七月一日までの時点修正率〇・九一一、更に右同日から平成五年一月一日までの時点修正率〇・八一七を乗じた数値に〇・七を乗じて得たものであり、全体として、平成四年一月一日における価格に〇・五二〇六を乗じた点数となっているところ、本件鑑定評価書イにおいて本件標準宅地イに係る比準価格の基礎とされた標準地番号中央五-四の土地の一平方メートル当たりの価格は平成四年一月一日において二三四〇万円(甲第一〇号証の三、乙第一九号証)、平成六年一月一日において前記のとおり一三八〇万円であり、その後者の前者に対する割合は〇・五八九七となっているのであって、このことからすると、本件標準宅地イと右公示地との間には、一〇〇対一三五の地域格差が認められる(価格決定資料イ、本件鑑定評価書イ)ものの、右路線価の算定において施された時点修正には、結論においても、合理性があるものと推認することができる。」

4  原判決の六頁一〇行目から七頁四行目までを次のとおり改め、原判決の別表Jlを本判決別表Jlのとおり改める。

「三 本件各土地の適正な時価について

右二のとおり、本件標準宅地イの路線価を八一二万点とし、前記の被告の算出方式に当てはめて、本件各土地の適正な時価を求めると、別表J1記載のとおり、本件土地一につき四億五七〇三万三〇〇〇円、本件土地二につき五億二〇四二万七九〇〇円となる。」

二  適正な時価の算定基準日について

1  控訴人は、前記第二の二に記載のとおり、「登録価格と課税標準とが大きく乖離することとなった現行法の下においては、登録価格が賦課期日における価格と一致しているか否かを審理の対象とすべきではなく、課税標準が賦課期日における価格と一致しているか否かを審理の対象とすべきである。」旨を主張する。

しかし、法四三二条一項は「固定資産税の納税者は、固定資産課税台帳に登録された事項について不服がある場合には、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。」旨を規定し、四三四条一項は「固定資産税の納税者は、固定資産評価審査委員会の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを提起することができる。」と規定しているのであって、被控訴人は土地課税台帳に登録された本件各土地の価格の一部取消しを求めて審査の申出をしたのであるから、控訴人の右主張は採用することができない。

2(一)  次に、控訴人は、「本件においては、たしかに、本件各土地の平成五年一月一日の価格が土地課税台帳に登録されたものであるが、法三四九条一項の「基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳等に登録されたもの」とは、「基準年度に係る賦課期日において土地課税台帳等に登録し得る価格」と解すべきである。」旨を主張する。

なお、控訴人は、「基準年度の賦課期日から評価事務に要する一定の期間を遡った過去の時点における地価を基準として、当該基準年度の賦課期日における土地の価格を求め、その価格を法四一一条により基準年度の価格として登録すれば足りる。」とも主張し、また、「法は、「賦課期日における価格」として、基準年度の賦課期日から評価事務に要する一定の期間を遡った時点を価格調査基準日とし、その価格調査基準日の価格をもって「賦課期日における価格」とみなすことをも許容しているというべきである。」とも主張している。

(二)  しかし、法三四九条一項は「基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋(略)に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格(略)で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳(略)又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳(略)に登録されたものとする。」と規定しており、法三五九条は、「固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。」とし、法三四一条五号は「価格」の意義を「適正な時価をいう。」と定めているから、そうとすれば、原判決が説示するとおり、本件においては、本件各土地の課税標準額は平成六年一月一日における適正な時価であって土地課税台帳に登録された金額となるものというべきである。賦課期日である平成六年一月一日から一定の期間を遡った時点(控訴人の主張では平成五年一月一日)における適正な時価をもって平成六年一月一日における適正な時価とみなすことはできないものというべきである。

もっとも、たしかに、法四〇三条一項は「市町村長は、固定資産評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならない。」旨を規定しており、そして、法四〇八条は「市町村長は、固定資産評価員に固定資産の状況を毎年少くとも一回実地に調査させなければならない。」旨、四〇九条四項は「固定資産評価員は、評価調書を作成し、市町村長に提出しなければならない。」旨、四一〇条は「市町村長は、前条第四項に規定する評価調書を受理した場合においては、これに基いて固定資産の価格等を毎年二月末日までに決定しなければならない。」と、四一一条一項は「市町村長は、固定資産の価格等を決定した場合においては、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならない。」旨を規定しているのであり、これらの調査評価決定事務のすべてを一月一日から二月末日までの間に行うことは困難であるが、しかし、例えば、平成五年一月一日における価格(適正な時価)を固定資産評価基準によって決定し、その後、これに平成五年一月二日から平成六年一月一日までの間の時点修正を加えて平成六年一月一日における価格(適正な時価)を決定し、これを平成六年一月一日から二月末日までの間に土地課税台帳に登録することも十分可能であって、これを法が禁じているとも解し難いから、そうとすれば、右の調査評価決定事務のすべてを一月一日から二月末日までの間に行うことが困難であることをもって、賦課期日から一定の期間を遡った時点における適正な時価をもって賦課期日における適正な時価とみなすことが許容されているものということはできないものというべきである。

控訴人が指摘する法附則一七条の二及び一八条(平成七年法律第四〇号による改正前のもの)も、平成六年度から平成八年度までの価格の上昇による課税標準の特例措置と平成六年度から平成八年度までの税負担の調整措置であって、これによって登録価格をもって課税標準額とする原則が法律上変更されたわけではなく、したがって、この附則をもって右の結論を左右することはできないものというべきである。

三  時点修正率について

東京都中央都税事務所固定資産税課長作成の「標準宅地鑑定価格時点修正率算定表」(乙第七号証の二枚目)及び東京都主税局税制部評価審査室B作成の報告書(乙第三七号証)によれば、本件鑑定評価書イを作成した不動産鑑定士Aが算定した本件標準宅地イの平成四年一月一日から同年七月一日までの時点修正率は、マイナス八・九パーセントと認めるのが相当であり、したがって、本件標準宅地イの平成四年七月一日の価格は一平方メートルあたり一四二〇万円となる(上位四桁以下切捨)。

なお、A不動産鑑定土作成の意見書イ(乙第一七号証)には「平成四年一月一日から平成四年七月一日までの時点修正率△九・〇%の根拠について」と記載されているが、右B作成の報告書及び弁論の全趣旨によれば、それは、BがA不動産鑑定土に時点修正率等の根拠を照会した際、平成四年七月一日現在の本件標準宅地イの価格を端数処理した後の金額である一四二〇万円と記載してしまったために、A不動産鑑定士がこの金額を前提に時点修正率を九・〇パーセント{1-(14,200,000÷15,600,000)}と計算して記載したものと推認されるから、A不動産鑑定士の右の記載をもって右の期間の時点修正率を九・〇パーセントと認めることは相当でないというべきである。

四  よって、被控訴人の本件請求を一部認容した原判決は不当であるから、これを取り消し、右取消部分に関する被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 原田敏章)

裁判官 榮春彦は転補のため署名押印することができない。

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